こたちの読書ブログ

19世紀英国文学好きの読書記録

W・コリンズ傑作選4『ノー・ネーム』|復讐相手と結婚?騙し合いの末勝利したのは…

ウィルキー・コリンズ傑作選Vol.4

f:id:cotachi:20200210124416j:plain

『ノー・ネーム』中巻のあらすじと感想を綴ります。上巻の記事はこちら↓

www.jpvictorian.com

『ノー・ネーム』(中)あらすじ

 姉の元から逃げ出したマグダレンは資金稼ぎのため、持ち前の演劇の才能を活かし、詐欺師のラッグ大尉(自称マグダレンの母方の伯父)と手を組んで地方巡業をしていた。しかし、それも長くは続かなかった。姉のノラが妹のためを想って警察に捜索願を出したのだ。人伝いに「あなたのせいでノラは家庭教師を辞めさせられた」という内容の手紙まで届くようになる。

 マグダレンは突如として役者を廃業すると次の手を打った。ラッグ大尉に父方の伯父の動向を調べるよう依頼したのだ。演劇で荒稼ぎができなくなった大尉は困惑するが、彼女の意志は固く動かせそうにもない。大尉は仕方なく偵察に向かった。

 偵察の結果、なんと伯父が急死していた。伯父の血縁者は30代の息子のノエル・ヴァンストンただ1人。マグダレンの父を含むヴァンストン家の全財産はこの男が握っていることになる。マグダレンは内情を探るため偽名を使い変装してノエルに近づいた。小心者のノエルから財産を脅し取るのは簡単そうに思えたが、使用人頭のレカウント夫人の目はごまかせなかった。

 抜け目ないレカウント夫人に変装が見破られてしまうと、追い詰められたマグダレンは「ノエル・ヴァンストンと結婚して財産を取り戻す」などと言い出す。すでに夫人に正体を見破られているが、マグダレンの素顔はまだ知られていなかった。

 今度はラッグ大尉とともに綿密に計画を練り偽家族のバイグレイヴ一家としてノエルと親密になる。美人にめっぽう弱い彼がマグダレンに惚れるよう仕向けるのは容易だった。しかし、ここでもやはりレカウント夫人が障壁となる。詐欺師のラッグ大尉も負けじと対策を講じるが……。

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.4〉ノー・ネーム(中)

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.4〉ノー・ネーム(中)

『ノー・ネーム』(中)感想

マグダレンについて

 財産を取り戻すために復讐相手と結婚するという方法をとったマグダレン。結婚したあとノエルに財産贈与の書類を書き換えさせるという計画のようですが、そのあとどうするんだろう。一生偽名を名乗って過ごすには障害が多すぎるような……。無謀な計画であることは誰がみても明らか。冷静な判断をくだせないほど彼女は追い詰められていたということですね。

 じっさい結婚間近になると「あの男(ノエル)と結婚するなら死んだほうがマシ」とアヘンチンキを手にして自殺をはかろうとします(※アヘンチンキは当時の痛み止め。大量服用すると危険)。「30分の間に通過した船の数が偶数なら生きる、奇数ならアヘンチンキをあおって死ぬ」と決断するシーンが好きです。緊迫しているけれど、どこかロマンチックな雰囲気がありました。  

ラッグ大尉について

 ラッグ大尉は金稼ぎのためにマグダレンを利用してやろうという分かりやすい悪党ですが、どこか憎めないキャラです。別に弱みを握られているわけでもないのにマグダレンの指示にはだいたい従うし、彼女の精神が不安定になったときは本気で心配したりします。マグダレンと暮らすうちにだんだん情が移っていったのかな。マグダレンとの協力関係が解消されたとき、去り際に彼がかけた言葉の端々に名残惜しさと思いやりが感じられたんですよね。

 それと、これは翻訳者のさじ加減ですが、彼はマグダレンに対して敬語で話しています。身分を偽って伯父姪の関係でいるときは口調を変え、裏ではへりくだった態度。この落差が日常と非日常のスイッチのようで面白い。