こたちの読書ブログ

19世紀英国文学好きの読書記録

W・コリンズ傑作選3『ノー・ネーム』|全財産と姓を奪われた娘が大胆な方法で復讐に挑む

ウィルキー・コリンズ傑作選vol.3

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 この作品は上・中・下の3巻に分かれています。今回は上巻の感想を綴ります。

ja.wikipedia.org

『ノー・ネーム』(上)あらすじ

 19世紀英国、南西部のサマセットに暮らすヴァンストン一家は父、母、娘2人の4人家族。裕福で何不自由ない家庭を築き、近隣の住人からも慕われる存在だった。ある日、ヴァンストン夫妻宛に不可解な手紙が届く。手紙の詳しい内容は娘たちに知らされず、『3週間後にもどる』とだけ伝えて父母は慌てたようすでロンドンへと旅立った。なにごともなく3週間後に父母は帰ってきたが、娘たちが質問してもはぐらかされるだけだった。

 しばらくして父が不幸にも列車事故で亡くなってしまう。知らせを聞いた母はショックで寝込み、そのまま帰らぬ人に。両親を同時に亡くして傷心の娘たちに、追い打ちをかけるように弁護士から衝撃の事実が告げられる。

 父は青年時代、とある女に騙されて結婚してしまった。幸いその女は金さえ与えれば口封じは簡単だった。女は死ぬまで資金援助を受ける代わりに、父と別居し、国外で暮らすことを受け入れた。数年後、父は新しい恋に落ち、現在の母と内縁の夫婦として暮らすことになった。やがて2人の娘に恵まれ、内縁の夫婦であることなどすっかり忘れかけていたころ、例の手紙が届いたのだ。それは国外で暮らす女の死を告げる手紙だった。夫妻は胸をなでおろすと同時に、善は急げと『結婚』するためにロンドンの教会へ向かった。

 父は生前、娘たちのために財産相続に関する遺書を書き残していたが、無情にも英国の法律と宗教的観念がそれを阻んでしまった。『結婚すると独身時代に作成したどのような遺書も無効になる』という法律があることなど父は知らなかったのだ。

 両親が未婚のままもうけた子供はとうぜん私生児として扱われる。2人の娘は『私生児』という法律的に保護してもらえない立場に転落してしまった。親戚を頼ろうにも、唯一の血縁者である父方の伯父は父と仲違いしており援助は絶望的である。

 自分の足で稼ぐしかない、と住み込み家庭教師を始めた姉娘のノラに対し、妹娘のマグダレンは密かな思いを抱いて家を飛び出した――。

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.3〉ノー・ネーム(上)

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.3〉ノー・ネーム(上)

『ノー・ネーム』感想

 かなり話が込み入っていてあらすじが長くなってしまいました。

 個人的に『結婚』『私生児』『財産相続』の3つが重要ワードかなと。いくら離婚が可能な英国国教会といえど、正当な理由なく(正当な理由があっても)離婚するのはかなり難しかったようです。当時の法律では私生児は財産を相続できないし世間からも白い目で見られてしまう。19世紀ともなると宗教的な要素はどこかしら絡んできますね。

 タイトルの『ノー・ネーム』には複数の意味が込められているとは思いますが、やはり直結するのは主人公マグダレンが私生児であり(概念的な)名字が奪われたことを意味するのだと思います。当時の婚外子に対する扱われ方にとても興味があったのですが、作中に婚外子差別の描写は期待するほどありませんでした。

 ヴィクトリア朝の模範的な淑女のような姉ノラと対照的に描かれる妹のマグダレン。中盤までは、この姉妹は仲が悪いのだろうかと疑っていました。ノラは家出した妹を必死になって探そうとしますし、マグダレンは姉と離れ離れになって涙を流します。

 次巻は『母方の伯父を自称するオッドアイの怪しいおじさん』とマグダレンが手を組んで財産を取り戻すお話です。どっちに転ぶか予想がつかない騙し合いが面白いですよ。