こたちの読書ブログ

19世紀英国文学好きの読書記録

W・コリンズ傑作選2|恐怖譚『幽霊ホテル』、息抜きに読めるコメディ『ならず者の一生』

ウィルキー・コリンズ傑作選Vol.2

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.2〉

ウィルキー・コリンズ傑作選〈Vol.2〉

  • 作者: ウィルキーコリンズ,佐々木徹,Wilkie Collins,甲斐清高,板倉厳一郎
  • 出版社/メーカー: 臨川書店
  • 発売日: 2000/04/01
  • メディア: 単行本
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 傑作選の第2巻の感想です。本書では中短編の作品が2つ収められています。19世紀中期のヴィクトリア朝に浸りたいときはコリンズに限ります。

『幽霊ホテル』~当世ヴェネツィア奇譚~

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 サブタイトルが示すとおり、物語の舞台は(導入はロンドンですが)ヴェネツィアです。

『幽霊ホテル』のあらすじ

 未亡人の伯爵夫人が財産目当てに英国貴族ウェストウィック卿と結婚するが、卿はヴェネツィア旅行中に屋敷で肺炎をこじらせて病死してしまう。のちに卿に対して高額な保険金がかけられていたことが発覚し、伯爵夫人へさまざまな疑惑が持ち上がる。しかし肺炎が原因の病死であることは医師の診断からも明らかだった。

 やがて屋敷は『ウェストウィック卿が病死した部屋』を残してリフォームされ、ホテルへと改築される。そうとは知らずヴェネツィアへ家族旅行に訪れていた卿の親族たちは『問題のホテル』に宿泊してしまう。無関係な客がその部屋を利用しても何も起こらないのだが、ひとたび親族の者が泊まると悪夢や幻覚、異臭が起こるのだった。

『幽霊ホテル』感想まとめ

 この中編、謎が解決されないまま物語が終わるんです。とてもモヤモヤします。伯爵夫人の謎めいた言動も最初は不気味で「2人きりになったら殺されそう……」とハラハラしながら読んでいましたが、終盤になるにつれてその不気味さがコミカルに思えてきたんですよね。恐怖と笑いは紙一重なんだなと実感しました。

 演劇の台本を通して事件の全容が語られるのが個人的には好きです。コリンズが書きたかったのは終盤の台本調だったんだろうな(台本調って言っても二次創作でよく見かける鉤括弧の前に配役が書いてあるような書き方ではないです)。

『ならず者の一生』~その誕生から結婚まで~

 息抜きって書いたけどもちろん人を選ぶ作品です。

『ならず者の一生』あらすじ

 名門の家系に生まれたフランクは父親の期待に沿えず転落人生を歩む。借金苦で投獄され、出所した後は名画の贋作を売買して再び逮捕されそうになるも機転を利かせて証拠隠滅に成功する。

 姉婿の紹介でようやくまともな職に就いて安定した生活を送っていた矢先、とある女性に一目惚れしてしまう。意を決して女性の屋敷を訪ねると立派な身なりの父親が出迎える。フランクは彼女に近づくため父親に挨拶するが、父親は近々この屋敷から引っ越すのだという。

 引っ越し直前に彼女が見せた涙の原因はどうやらあの屋敷にあるらしい。秘密を探るため屋敷に侵入したフランクは怪しげな化学実験を目撃することになるが……。

『ならず者の一生』感想まとめ

 まず作品の印象としては、第一巻の『バジル』に境遇が似ているなあと。主人公は名家の血筋で親とは疎遠。通りすがりのヒロインに恋する展開も同じだし、ヒロインの実家が秘密を抱えているのも似ていますね。コリンズはこういう展開が好きなのかも知れない。

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www.jpvictorian.com

 主人公のフランクはとにかく頭の回転が早い。人心の掌握に長けているので転職先や監獄の囚人たちとも仲良くできる器用さがあります。

 フランクの祖母がたびたび遺産相続の件で登場するんですが、これが『ならず者の一生』のもっとも面白いところ。ちなみに祖母は間接的にしか登場しません。

 人伝いに祖母の容態が伝えられたり、新聞に祖母の健康状態が掲載されたりします(祖母は高貴な血筋なので新聞に取り上げられる)。フランクの姉婿は祖母の遺産を狙っていますが、とうの祖母は災難がいくら起きてもピンピンしています。

 むしろ遺産相続の話を主軸にしてほしいくらい面白いんですよね。祖母の生命力としぶとさは確実に主人公に受け継がれている気がします。勘当されてもやっぱり血は争えない。