こたちの読書ブログ

19世紀英国文学好きの読書記録

オスカー・ワイルド「犯罪者」にして芸術家|ヴィクトリア朝に生きた男色家

オスカー・ワイルド「犯罪者」にして芸術家

本書を手に取ったきっかけ

オスカー・ワイルド - 「犯罪者」にして芸術家 (中公新書)

オスカー・ワイルド - 「犯罪者」にして芸術家 (中公新書)

タイトルに惹かれて買ったのは否めない。最近は翻訳本ばかり読んでいたし、たまには日本人の感性で書かれてる本を読もうと思いまして。19世紀に生きた同性愛者がどういった扱いを受けていたのか、というのを具体例をあげてもっと踏み込んだ形で知りたいと思ったからです。

本書のテーマ

19世紀英国に人気を博した作家、オスカー・ワイルド。代表作に『幸福な王子』『サロメ』『ドリアン・グレイの肖像』などがあげられます。ワイルドの赤裸々な恋愛遍歴と、芸術的な感性から生まれた名言をエピソードを交えて紹介していく評伝。

本書の見どころ

評伝とは思えないほど人物紹介が艶めかしい。ドラマチックな文体でグッとくる場面もありました。過剰な装飾はせず、あくまで史料に基づいた公平な記述がされています。

罪深きソドミー法

こちらの方の記事がわかりやすいです↓

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ちょっとだけ補足。1861年に刑罰が緩和されましたが、1870年に起こった「ステラ・ファニー事件」(※街中の劇場で青年2人が女装して歩いているところを逮捕された事件。しかし証拠不十分で無罪となった)を受け、1885年にふたたび刑法改正がなされることになります。

これにより男性同士の肛門性交を伴わない性的接触(口淫や相互自慰)も厳しく取り締まるようになりました。男性同士キスしただけで逮捕される時代の到来です……。

ワイルド最愛の恋人、ダグラス卿

わがままでワイルドに負けず劣らずの浪費家。「自分が浪費する金はすべてワイルドが払うべき」とかのたまう放蕩貴族。第九代クィーンズベリー侯爵の三男で、ワイルドが投獄される元凶となった魔性の美男子、アルフレッド・ダグラス卿。

読めば読むほど「最低だな」という感想しか出てこないけれど、ワイルドの晩年に関しては同情の余地あり。ワイルドはワイルドで、ダグラスに関する事実無根の悪口を(周りの同情を引きたいがために)書きたてました。

ワイルドはこの手法で同情を集めるのが得意だったようです。ふたりともクセのある性格のせいで何度も何度もケンカ別れしますが結局復縁を繰り返します。面白いですね。

どこでもロマンス

上記のとおりワイルドとダグラスは恋人同士ですが、(例に漏れずというか)お互い不特定多数の男性と恋愛関係にありました。旅行先で必ずと言っていいほど美青年とロマンスに明け暮れるワイルドはある意味すごい。どうやって自分と同じ性癖の人間を見分けるんだろう。それも美青年で限定すると探すのは困難なはず。

旅先でロマンスする彼から読み取れることは、同性愛者はどこの国でも、どの時代にもかならず存在するということ。

ワイルドの死因

念のためWikipediaのオスカー・ワイルドの要項を覗いてみましたが、しょっぱなから『体育などを好み』[要出典]とか書いてありまして……(本書によるとワイルドは運動が大嫌いだった)。ちょこちょこ嘘が書いてあるというか、現在では否定されてる説が古い情報のまま載っているようです。

死因は梅毒ではなかったとか。

かつて刑務所にいたときに何度も精密な医療検査を受けたが、そのときの記録にも、ワイルドが梅毒に罹っていたことを窺わせるような所見は何もないし、治療もされていない。

(『オスカー・ワイルド』第7章・墓場からの帰還・275頁|宮崎かすみ著)

wikiは便利ですが、頼りすぎると真偽不明な記述も信じてしまいそうで怖いなと。

まとめ

私個人としては、興味のある19世紀の芸術や演劇について触れられている箇所が多くて大満足でした。ワイルドはどちらかというと劇作家としてした活躍した人物だったんですね。

投獄されてからの訴訟&借金地獄、劣悪な刑務所の描写がつらくて胸が詰まりそうでした。裕福な暮らしでペンしか握ったことがないような人が刑務所の労働に耐えられるんだろうかとか(実際は軽作業が割り当てられた)。

出所後、同性愛が罪に問われないフランスに拠点を移しても「罪人」として世間から冷たい視線を向けられます。ナポレオン法典とは何だったのか……。

書かれているのはほんの一部でしょうけど、当時の裁判制度についても勉強になりました。他の国や時代については知識がないので何も言及できませんが、この時代の英国は「名誉毀損で訴える」案件、多いなあと。これよりもっと前の時代、50年~100年前なら『決闘』で互いの名誉のために勝負していたはず。決闘が裁判に取って代わったのだと考えます。

ワイルドは生まれついての浪費家で、作品が大当たりして大金を得たとしても、あっという間に使い果たしてしまいます。全編通してお金を得るために作品を書いていたような印象を受けました。

もう少し倹約・節制して生きていたらどうなっていただろう。正直想像できない。彼が浪費家だからこそまれた作品もあっただろうし、本人のカリスマ性が培われたのだと思います。

著者の宮崎さんは「ワイルドの人となりを知ってがっかりした読者もいるかもしれない」とおっしゃっていたけど、むしろもっと知りたくなりました。いままで特に好きな作家はいませんでしたが、今後は研究対象としてオスカー・ワイルドをもっと好きになれたらと思います。