こたちの読書ブログ

19世紀英国文学好きの読書記録

ウィルキー・コリンズ傑作選vol.1『バジル』|身分違いの恋の末、秘密結婚した2人に降りかかる災難とは

ヴィクトリア朝を生きた小説家ウィルキー・コリンズ

 

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二段組みハードカバーの本なんて久々に読みました。

ウィルキー・コリンズ傑作選〈第1巻〉バジル

ウィルキー・コリンズ傑作選〈第1巻〉バジル

  • 作者: ウィルキーコリンズ,佐々木徹,Wilkie Collins,北川依子,宮川美佐子
  • 出版社/メーカー: 臨川書店
  • 発売日: 2000/06/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

 コリンズについての詳細は下記のサイトがわかりやすいかと思います。

www.rinsen.com

コリンズ傑作選を選んだきっかけ

じつはコリンズの代表作である『白衣の女』、『月長石』は読んだことがありません。ふつうは代表作から読んでハマって傑作選に手を出すのが順当なんでしょうけど……。

傑作選巻末の解説に「月長石を読まれていない方はこの先重大なネタバレがあります(意訳)」という注意書きが太字で表記されていたんですよね。代表作だから読んでいる前提で解説をしてもいいはずなのに親切だなあと。ちなみに傑作選には代表作2作品は入っていないので別途買う必要があります。

私がウィルキー・コリンズの名を知ったのは、2018年に出版された『ヴィクトリア朝怪異譚』からです。『狂気のマンクトン』は中編4作品でもっとも存在感のある小説でした。

ヴィクトリア朝怪異譚

ヴィクトリア朝怪異譚

  • 作者: ウィルキーコリンズ,ジョージエリオット,メアリ・エリザベスブラッドン,マーガレットオリファント,Wilkie Collins,George Eliot,Mary Elizabeth Braddon,Margaret Oliphant,三馬志伸
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: 単行本
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法律を学んだ経歴があるという点に惹かれたんです。当時の法律を知りたければ専門の資料を見るのが手っ取り早いんでしょうけど……ぜったい放り投げる自信があります。

『バジル』のあらすじ

古い名家の次男として生まれたバジルはある日、商人の娘マーガレット・シャーウィン に一目惚れしてしまう。名門の血筋を誰よりも誇り、重んじる父親が商人の娘との結婚を許してくれるはずがない……そう考えたバジルは『秘密結婚』の契約を交わす。

本人の気持ちをよく確かめもせずに『娘さんと結婚させてください』と娘の父親に申し出る展開。時代が時代なので仕方ないのですが、現代の価値観で読んでいるとモヤモヤしますね。

「いくら父親が反対しようと、こっそり結婚してしまえばこっちのものだ」っていう強引な理論にちょっと笑ってしまった。判断能力が欠けるほど盲目になっていたバジル。この時代の結婚って基本的に後戻りできないんですよね。いくら英国国教会が「離婚OK」ってしていても実際に離婚する人は多くなかったはず。

シャーウィン氏の右腕でマーガレットの元家庭教師マニオンという謎めいた男が現れてから物語は面白くなります。言動や身のこなしからそれなりの高等教育を受けた紳士であることが分かるのに、どうして商人のしたっぱとして働いているのだろうとバジルは興味を抱く。

バジルがあの手この手で探りを入れてみるものの謎は深まるばかり。しかし意外な形でマニオンの正体が暴かれることになる……。

ヴィクトリア朝の禁欲主義と階級意識

これぞまさに私がヴィクトリア朝に求めていたもの。

禁欲主義

マーガレットが元家庭教師マニオンと一緒にわびしいホテルに入っていく場面があるんですが、詳しい描写は一切なく主人公の思考のみで展開されていくんですよ、これが。

男女ふたりきりでホテルに入ったということは、つまりは『そういうこと』なんでしょうね。そうじゃなきゃ「薄い壁の向こうから2人の話し声が聞こえた」くらいの描写しかなかったのに、主人公が激怒してる理由がわからない。

主人公が1年間手を出さずに誠実な態度をとってきたにもかかわらず、(幻覚症状の中で)マーガレットは「男のくせに1年間も手を出さないなんて軟弱者ね」とあざ笑います。誠実な紳士が悪女によって人生を破滅させられるたぐいのお話、私は大好きです。

貴族ではないジェントルマン階級

概念としての紳士(ジェントルマン)は品行方正で礼儀正しい男性、的な意味がありますよね。主人公とその家族は名門の出身ですが、貴族でもなければ爵位もない『ジェントルマン』と呼ばれる上流の人々。

その定義はあいまいで、古くから続く家系出身であるとか、公職や弁護士、軍人など社会的地位が高いとか。貴族ではないけれど世間的には上流に位置づけられていた人々をジェントルマンと呼んでいました。シェイクスピアの劇にも紳士と呼ばれる役名が何人か出てきますが、概念としての『紳士』ではなく『紳士階級』をさしていると思われます。

コリンズの生きた時代は19世紀中期ごろ。産業革命によって機械に仕事を奪われる……ことはなく結果的に選べる職種が増えた時代。裕福な中産階級が台頭してきます。物を売ってお金を得る商人たちは上流階級から侮蔑の対象とされてきました。まさに『職業には貴賎がある』時代でした。

 

まとめ

本をひらいた瞬間2段組構成だし、まえがきで長々と語っているし最後まで読めるだろうかと不安になりました。でもストーリー自体はわかりやすいし、伏線もきちんと回収されているし、後半から一気に読み進められましたね。終盤の「常に見張られている緊迫感」にドキドキしてしまう。

傑作選2巻は『バジル』よりも明るいお話らしいのでもっと気楽に読めるでしょうか。